駅からウォークの日曜日

日曜日、「駅からウォーク」というのに参加してきた。ワタシを知るごく少数の方は、インドア派で団体行動が苦手なのになぜ?と疑問にお思いでしょうが、全くその通り。これには深い(というほどではないが)訳がある。


私が参加したのは、JR総武線下総中山駅から、中山法華経寺をメインに、東山魁夷記念館まで歩くというコースなのだが、この中山法華経寺にヒミツがあるのだ。ワタシの父は、定年退職後、得意の書の腕を活かして、篆刻やら表装やら、あれこれ趣味を楽しんでいた。ワタシと違って、けっこうアウトドア派で人付き合いの好きな父は、お仲間で拓本採りなどもしていたのだが、中山法華経寺で拓本を取ったある胸像が、父を謎解きに目覚めさせてしまったのである。


その像は、頭山満安政2年生まれ、昭和19年に亡くなっている。萩の乱自由民権運動にも加わったが、のち玄洋社の設立メンバーの一人として国家主義者となっている。しかしその横顔はなかなか興味深く、金玉均孫文ラス・ビハリ・ボースなどの独立運動家をよく支援しているし、「衰運に乗じてその領土を盗むようなことが非常に嫌いで、朝鮮の併合も反対、満州事変も不賛成、日華事変に対しては、心から憤っていた」(東久邇宮著『私の記録』)というような人物である。蒋介石とも親交があり、東久邇宮は頭山と蒋介石の会談によって日中和平を画策したが、東条英機の反対で実現しなかったという。いまどきのネオコンのあきれた単純さは比べるべくもなく、なかなか興味をひかれる人物である。しかも中山法華経寺には、蒋介石の像もあるのだ。

もちろん、父は自分でもいろいろな人に聞いたし、寺務所にも訊ねたのだが、なんとなく曖昧なのである。高齢となり、病気もあって足もとがおぼつかなくなってきた父は、以前にもワタシを派遣して(笑)写真を撮ってこさせたりしていたのだが、市報を見てこの「駅からウォーク」の企画をみつけ、「お前行ってこい」というわけである。やれやれ。


特に新しい情報は得られなかったのだけれども、どうやら当時(先代?)の住職(というのかどうか知らない。管長とかかな?)が蒋介石と個人的に付き合いがあり、彼をたたえる像を建てた(建てた翌年に蒋介石は亡くなった)ということ、思想的に右翼シンパだったらしいということで、蒋介石とつながりのある頭山満の像がここにあるのも、これは未確認情報なのだが靖国神社にあったものをここに移したらしいという(そのときに三島由紀夫が参列したという話もある)。まあ父もワタシもわかったのは今のところこのあたりまでなのだが、どうも寺はあまりこのあたりの事情をアッピールする気はないような感触で、頭山満像も、気のせいかもしれないが、あまり目立たせない風である。日曜日も春の大法要が始まって骨董市が立つなど寺はなかなかの賑わいだったが、頭山像は受付のテントの後ろに隠れていて、隣の水子供養塔には訪れる人も多いが、テント裏ではなおさら頭山像に気付く人も少ないであろう。・・・とまあ、切れ切れの話をつなぎ合わせるとこんな感じなのだが、歴史的な考証はまったく行っていませんので、あしからず。むしろ何かご存知でしたら、教えてください。父が喜びます。


なお中山法華経寺とその門前はなかなか風情がある。桜の季節は終わっていたが、千部会でにぎわう境内は活気があり、行き交う人が立ち寄る門前の商店も昭和の古い店構えがあちこちに残り、時代が少し遡ったような印象だ。参道の小さな店で売っている栗の形をした今川焼き風の「栗饅頭」は美味くて安いので、焼き立てを召し上がるか、お土産にもぜひ。東山魁夷記念館は、直筆画ではなく版画ばかりだが、小ぢんまりした展示はそれなりにくつろげる。入館料500円は展示物のボリュームを考えると微妙なところ。レストランは精養軒?の経営でうまいらしい。